神戸地方裁判所 昭和28年(行モ)11号 決定 1953年11月06日
右当事者間の昭和二八年(行モ)第一一号行政処分執行停止命令申請事件について、申請代理人は、「申請人に係る出入国管理令違反事件に関し入国管理官は申請人が出入国管理令第三条の規定に違反して本邦に入国したものと認定したので、申請人は右認定に異議があるとして口頭審理の請求をなしたが特別審査官は右認定を誤りなき旨判定した。申請人はこれを不服として法務大臣に異議の申立をしたが、法務大臣は右異議を理由なしと裁決し、右裁決書に基き被申請人は昭和二八年六月一五日申請人に対し退去強制令書を発布した。なるほど申請人は昭和二七年一一月下旬頃本邦に不法に入国したのは事実であるが、右入国は、親日派として旧本邦陸軍に協力した廉で官憲の追及をうけていた申請人の父親趙云玉が昭和二五年八月本邦に亡命した為申請人は孤独となり、伯母の世話を受けて京城大学に在学中朝鮮戦乱に遭遇し戦禍の為に財産を喪失し、頼る伯母とも諸所を彷徨する内生別し、住むに家なく奸漢の一族として迫害を受け生命に危険を感じたので大阪市に在住の父を慕つて渡航してきたものであるが、申請人は当時本邦えの渡航が犯罪を構成するとは露知らなかつたし、これを知つて後直ちに自首を決意し自首すべく警察署に出頭途上逮捕されたもので、刑事事件としては右の情状を参酌され起訴猶予処分になつたほどで、身柄は口頭審理中病気の為仮放免となり目下療養中であるのみならず、朝鮮に何等の住居、財産、知己等のない申請人は本邦に在留の許可があれば、本邦には父親、親族が居住し経済的にも生活上の不安なく、今春明治大学に入学し目下勉学中で、やがて卒業の暁には日韓親善の絆ともなり得る確信と覚悟を有している次第である。かかる事情は出入国管理令第五〇条の在留の特別許可をなすべき事情として考慮さるべきなのに、かかる事情につき充分な審理を尽さずしてなした裁決は違法であるのみならず申請人を生活の根拠のない朝鮮に退去を命ずることは基本的人権を無視するもので前記退去強制令書は違法であるから、申請人は神戸地方裁判所に対し右退去強制令書の取消訴訟を提起しているのであるが、右判決あるまでに該令書に基く執行を受けるときは、生命の危険があり何等生活の基礎のない土地に放逐され本邦で営む平和な親子生活は破壊され、勉学の希望は断たれるだけでなく提起中の本訴は勝訴の利益を享受できない等償うことができない損害を蒙ることとなるので右退去強制令書の執行停止を求める。」旨申立てた。
当裁判所は被申請人の意見を聴いた上右申立を理由ありと認め主文の通り決定する。
申請人 趙昌鎬
被申請人 神戸入国管理事務所長
主文
被申請人は昭和二八年六月一五日申請人に対して発した退去強制令書に基く執行を停止せよ。
(裁判官 古川静夫 中島孝信 坂上弘)